迷い道3(ホーパパ×23号まだ未遂)
・迷い道
03
過去自分はすっかり黙りこんでしまっている。
ホーエンハイムは浴場の脱衣所で入浴準備に腰布を巻く、
客の入浴の準備に黒オリーブの石鹸を練り垢すり用の道具を用意する過去の自分に呼びかけようとしたが、このときの自分はまだ名を持たず23号と呼ばれていたと思い返す。
23号と呼ばれたところで何とも思わないとホーエンハイムは知ってはいるが、なんとなくそう呼びたくはなかった。
「君も着替えなさい一緒に入るんだよ。」
呼びかけると目の前で困惑している自分がいる。
どう答えたものか迷っているのだろう。
蒸し風呂の中は話をするには最適だろうと着替えを促す。
並んで暖かいスチームが満ちた部屋にあつらえられたモザイクタイルが美しい椅子に腰掛ける。
「言いたいことがあるのだろ言ってごらん。」
「それともお願いかな?」
「…」
所在なさげに落ち着かない様子でそらされていた視線を彷徨わせながら、とつとつと話はじめる。
「さっき俺とお客様の前に居た女の人は…」
態度で続きをうながしてやる。
「砂漠からお客様をお連れした11号とその…」
「恋人関係にあるのかな?」
「えっと…ご主人様には」
「私のことは気にすることはない、普段どうりに話すといい。」
小さな自分の髪をくしゃりとなでる、スチームと汗で湿った感触が手のひらに伝わる。
この時分は主人の客に話しかけることなど言語道断であったので話慣れず、うまく話せないのだろうと容易に想像がつくが、自分からお客様などと呼ばれるのどうにもむず痒い。
そういえば知恵の小人と話すようになってからずいぶん鍛えられたのだと思い返す。
そもそもどう呼んだものかと困っているのだろう。
「私のことはフィルと呼ぶといい。私の名前の愛称のようなものだよ」
「その俺達は、お客様を名前で呼んだりしてはダメだから…」
「では、先に本題にいこうかな」
「私を砂漠で助けてくれた彼とさっきの彼女が恋人関係なんだね?」
「ああ…で、その、ご主人様はあの人と俺を夜伽に送り込んだんだけど、出来ればあの人を見逃してくれないかと思って。」
「それはもちろんだ。助けてくれた彼に不義理はできないからね。」
過去のホーエンハイムはあからさまにホッとしたようだ。
「彼は今頃やきもきしているだろうね…」
自分が何を言い出すか既に思い出したホーエンハイムは
過去の自分が何をいいだすかもちろん分かっている。
彼らはここで主人の命令を果たせなければ翌朝何かしらの罰が与えられることになる。
今でこそ不条理だと感じるがこの時分のホーエンハイムはそれを全く疑問に思っていない。
「お願いがあります…。」
「俺で我慢して下さい!」
とうとう来たと思った。
そう、どちらか片方でも手がつけば言い訳もつく。
当時のホーエンハイムとっては主人の不興をかうのは死活問題だった。
つづく
・迷い道