迷い道1(ホーパパ×23号まだ未遂)
・迷い道
01
サクサクサクサク
夜の砂漠ただただ歩く。
キメの細かい砂は歩く度に足下できしむ。
男は今は遺跡と呼ばれるようになり水場として交易の商隊が通るのみの忘れられた都市を目指して歩いていた。
「おかしいなこのあたりのはずなのに」
何度となく足を運んだ場所だ、その場所離れては戻りを何度となく繰り返していても一度ととして
戻れなかったことなどこれまでなかったのだ、おかしなことだ。
立ち止まった男の耳に数騎のラクダの足音が聞こえる。
何もない静まりかえった砂漠ではかなり離れていてもこうした音は聞こえるものなのだが、急に聞こえて来ることは奇妙でもあった。
だがこんな所を通るのは商隊ぐらいしか考えられないのだ、悠久の昔男の故郷がこの地にあった時分であれば夜の砂漠には盗賊や得体の知れない獣も跋扈していたが
昨今はこの砂漠を歩いたところで、トカゲやサソリにあいはしても人間に会うことなどほとんどなくなっていた。
南の諸国との国交を回復し沿岸を通ることが可能となり、危険な砂漠を越えるよりも南から海路を通ることが一般的になっているからだ。
らくだの足音は空耳ではないらしく次第に近づいて来ている。
商隊なら同道を願うのも手だが、盗賊のたぐいであるならみつからないか屍とでも思われた方がいい。
砂漠でもいつものアメストリス紳士スタイルの上にそのまま砂色の大きなジュラバを着ているので暗い夜の砂漠では砂の上に伏せてしまえば見つからずに終わることもすくなくない
男は荷物を砂に軽く埋めその側に伏せた。
そうするあいだにも、らくだの足音は近づいて来ていた。
消えやすいとはいえ荷車の轍や足跡が残っていて人々はその上を歩いて行くことで道に迷うのことも少なくなるのだ、らくだの足跡をたどっていくことになる。
男は得意の方法で足跡を残さず外れた場所に伏せているのでこのまま見つからないだろうとたかを括っていたのだが、
どうやら、このときのらくだは頭がよいらしく、砂漠の遭難者を見つけてしまったようだ、
らくだの異変に気づいた何者かは伏せた男の元に近づいてくる。
生きているか?という問いかけで、盗賊のたぐいでないことは確かだ、
男はふらついた振りでおきた。
男は目の前の顔に凍り付いた、なぜならその顔は男がかつてこの地に居た頃に見知った顔であったからだ。
「どちらへ行かれるつもりだったのですか?」
「あぁ。クセルクセスへ向かっていたのだけどね。途中で盗賊にあってしまって命からがら逃げてあそこで力尽きていたんだ」
ラクダの乳に塩とバターを混ぜたあたたかい飲み物を振る舞われる。
「助けて下さってありがとう。」
金属に鏨で模様を打ったカップを包み込みように持ちながら心底礼をいう。
砂漠で一人など怪しいことこのうえないのだ、盗賊である可能性も低くはない。
こうして、飲み物を振る舞われていることが奇跡といってもいいだろう。
それにしても目の前の過去の知り合いそっくりの青年が気になってしかたがない。
まだ男が奴隷だった時代に同じ主人に仕えていた顔にそっくりなのだ。
遠く懐かしい記憶を刺激する。
とてもいい日々ではなかったし、すべての騒動のはじまりの手痛い記憶も生々しく思い出されるが
それでも、懐かしく暖かい気持ちになる。
「砂漠ではお互い様ですよ。最近物騒ですから。」
そう、彼もこの目の前の青年と同じく主人に彼の一族の砂漠を渡る技術を買われて、こうしてよく砂漠にでていたそして、
砂漠の民の掟に従って生きていたかれもこうして砂漠に落ちている人をクセルクセスまで同道していた。
「クセルクセスにくるのは久しぶりなんだが最近このあたりはよくないのかい?」
「ええ、村が一つ消えてしまったり…」
「そうか…」
このあたりに村などあっただろうか、男は長くこのあたりを行き来しているので村やオアシスがあればたいては把握している自信があったのだが、
また、ここ数年砂漠に密やかに住まっているイシュバールの民が新しい村でもおこしたのだろうか?
疑問はたくさんわき起こるが、不審に思われてもかなわないので黙っておく。
「すまないがこのままクセルクセスまで同行さえてもらってもいいだろうか?」
「どうぞ砂漠の掟ですから」
懐かしいフレーズに頬がゆるむ。
「ありがとう。わたしはヴァン・ホーエンハイム、君は?」
「私は今は11号と呼ばれています。名前はなくしてしまいました。」
「すまない。」
「いえ、私の名はハサンというのですよ。」
これはどういうことだろうか、ありえないことだが目の前の青年はホーエンハイムが知る彼と同一人物なのだろうか
ホーエンハイムは久々に目の前が暗くなるような衝撃をうけたのだった。
「ありがとうすまなかったね」
クセルクセスの門前にたどり着いたホーエンハイムは、ここまで同道してくれた青年に礼を言って別れようとしていた。
知りたいこともあったが、不審に思われると外に出て活動が許されているとは言え奴隷として扱われている青年にも迷惑がかかってしまう。
「11号そちらの方は?」
そこへ輿に乗った男が現れぞんざいに話しかける。そこにあった顔にホーエンハイムは見覚えがあった、主人の屋敷を訪れることも時々あるこのあたりの警備責任者だ、
「こんばんは、砂漠で盗賊にあって行き倒れていた所をこちらの方達に助けていただきました」
せいぜい暗い陰気な雰囲気を演出して答えておく、砂漠では珍しいことではないのでクセルクセスに入れなかったにしても門前で旅に必要菜最低限をそろええるぐらいは許されるのがつねだ、よしんば許可されなくてもホーエンハイムにとっては問題ではない。
「どちらからこちらへ?」
警備責任者はホーエンハイムの言い分をはなから嘘と決めてかかることもなく職務質問する。
砂漠では珍しいことではないからだ。
「クレタからです」
「何をなさりに?」
「私はクレタの西側エウロペイアからきたフィリップス・アウレオルス・テオフラストゥス・ボンバストゥス・ヴァン・ホーエンハイムといいます。海産物を持ってこちらで玉の買い付けの予定だったのですがこのざまです…」
名を名乗ったのはこの時代に名を持っていることはそれなりの階層に属すもしくは国からの信任が厚く名を賜ったかのいずれかだからだ。
「なるほど、そうでしたか」
「実は荷物のほとんどを失ってしまって、今の私は通行証を持っていません」
悲しげに麻袋と旅行用のトランクに目をやった。
「残ったものはこれだけです」
「できれば、ラクダの調達と旅支度の許可をいただきたいのだが許可いただけないだろうか?」
警備責任者は輿を担いでいた男達に輿をおろさせ、一人を詰め所に使いにやる、荷物を調べてヤバイものがでなければ、間違いなく街への立ち入りと通行証の再発行がされる。
旅支度のトランクの荷物検査をしている警備兵がホーエンハイムの手帖を警備責任者に差し出す。
「荷物検査は仕方ないのだが商売上の数字なのでできれば、後は忘れていただけるとありがたい」
警備責任者はペラペラ手帖をめくりながら話かけてくる。
「天文学などもなさるのですか?」
「ええ、砂漠では星が道を教えてくれますから旅日記の代わりに星の巡りをつけているのです。」
楽しみなのですと付け足した。
「なかなかの知識をお持ちのようだ。」
「通行証を発行しましょう。発行がすむまでお茶でもいかがかな?」
「ごちそうになります。その、厚かましいお願いなのですが安心な宿をご紹介いただけませんか」
「ああ。そうでしたな、」
「面白い研究をしている男が友人におりましてね」
友人に会ってみないか?と言ってくる警備責任者の言葉にホーエンハイムは予感をおぼえる。
このまま旧知の面々に会うことになるのだろうと…。
つづく
・迷い道