花冠4話
花冠4話
密談だか取引だかを終えた男が公園の出口に向かうのを二人は気付かれない程度の距離を空けて後を追う。
男に遅れて公園を出た二人の前には、悪いことにゲートを出てすぐの信号が赤で同じく公園からの帰りであろう人と犬そして男が信号待ちしていた。
本来なら尾行が付いていることを悟られないように交代するはずだったが信号を待っている人の中にも周辺にも公園の外で待機しているはずの交代要員持ち場を離れていなかった。
今回は後方を預かっているホークアイから何か指示が出て持ち場を離れたのか、不測の事態が起こっているのだろうかと考えめぐらせる。
目的の人物達はそれぞれ違った方角への横断歩道の前に立ってちらちらと公園の出入り口を振り返っている。
人数に余裕があれば二人はこのまま歩き去りバックアップの要員と交代するところだが現状のこちらの数ではそれも叶わずロイは腹を決める。
エドワードはロイが合図を送るまでもなく、予定どおり分かれて追うだろ?と言わんばかりの台詞を寄越しロイを見上げてきた。
「じゃーな俺今日こっちなんだ、あんたも仕事頑張れよ。」
「イーディアまた夜に」
ロイはエドワードに頷きながら子供の頬に唇を寄せ挨拶を送る振りでホークアイへ増援要請をしてくれとエドワードへ指示を囁き、ついでにチュッと唇にキスを残して離れた。
「あんた往来で何するんだ!」
エドワードは真っ赤になって怒ったが作戦中だとしっかり覚えているからかいつものように派手に手も声も出さず通常音量で怒っていた。
それが周囲で同じく信号待ちのご婦人達には恥ずかしそうに可愛らしく聞こえるらしく、ひそひそと仲間内で囁きながら二人の動向に熱い視線で耳はダンボ、エドワードの真っ赤な顔をそして悪態に中年のご婦人方は微笑ましげな、またお年頃のご婦人にはうらやましそうな視線を送られたが問題の男達からは不審の目を向けられなかったので任務に支障無しとエドワードは『キレてしまいたい』誘惑に任務任務任務……と心の中で唱え無能イヤミ無能イヤミとさらに続けて何とか打ち勝ち煩わしい視線を見なかったことにして黙殺に成功した。
信号が変わり信号待ちしていた人々の一団が移動はじめる。
男も人の群れと共に道路を横断してそれぞれ違った方向へ向かっていく、それを追ってロイとエドワードもそれぞれ違う人物を追って歩きだした。
道路を横断した角のカフェのオープンテラスにはブレダを含み4人が待機しているのが見えた。
エドワードは男が振り帰っていないのに注意してテラスでコーヒーカップを傾けるブレダに視線を合わせ頷いて交代の合図を送り、道に面した電話ボックスの扉を開けた。
パタン 古びた赤い電話ボックスの扉は意外に軽い音でしまりエドワードを外界と隔てた。
エドワードは受話器を上げさりげなく周囲に注意しながら今回の作戦のために新たに個人名義で引かれた回線の番号をダイヤルした。
トーン音それから2コールでフュリーの声が受話器から聞こえた。
「フラワーフェスタ事務局でしょうか?…あっ、はいダリル・ガーランドに取り次いで頂きたいのですが。」
「えっ?ダリル?仕事中に電話してゴメン。ハロルドと夕方会う約束したから今日は遅くなるから。ルーテルにも言っといて
遅くなるから連絡しとかないと心配すると思って。」
「今?公園のそばのデリの前だけど、それが?
あぁそうそうルーテルから預かった弁当はちゃんとベイカーに渡したから、
もうちょっとしたら弁当箱もらって帰るから」
「え?ハロルドと会えなかったのかって?
いいや公園で一緒に弁当食ったよ、でも今日は弁当の量が少なく作っちまったからハロルドきっと途中で腹ぺこだろうな…ルーテル手製の菓子も持っていけばよかった。」 「あぁうん忙しいのにゴメン…じゃあ。市場に寄ってから電話するから。」
エドワードは家族がするような普通の会話で状況をフュリーに伝える。
『フュリー曹長?こちら鋼の錬金術師。大佐とは現在二手に分かれて男を追跡中。大佐とは公園を出るときに別れたけど、トラブル発生大佐の方にはバックアップ要員が付いていない中尉に言って人を送る算段してよ。
こちらの追跡ははブレダ少尉が引き継いでる。』
要約するとこんな内容だが普通に聞く分にはただの家族の会話にしか聞こえないようにできている。
暗号を使うのは作戦ではめづらしく無いが今回は暗号自体が軍のものではない、そして無線が使えなので連絡は電話回線でするしかなく不自由極まりない。
エドワードが報告したニューオプティン司令部の現状から麻薬密売組織と軍が癒着している可能性もあり、もしそうなら捜査情報が筒抜けになっていてもおかしくない。
そして裏切り者が居るなら軍の末端の巡回に出る兵士にまでも行動を押さえている、イーストで流れるニューオプティンの現状の噂ですら操っていることからみてどうみても単独犯では無い上に地位も決して低くない人物が関与しているとのロイの見立てだった。
そして小物ではない。
それがロイ・マスタングにとって一番のやっかい事だった。
そんな事情で、一般回線を数本の個人名義で引きさらに法人名義で数本、
その他レンタル回線を巧みに配置し、イーストフラワーフェスタ事務局といういかにもこの季節がらありそうな架空の祭りをでっち上げ事務局という名の通信部隊をあつらえた作戦が軍内部にすら極秘で展開されることになったのだった。